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あなたは区別できる? 次世代DNAシーケンサーの分類

 こんばんは!

 

 今回は、DNAシーケンシング技術について紹介したいと思います。

 昨今のバイオ業界では、次世代シーケンサー(NGS)というワードを無視できないほど研究が広がっていますが、「次世代」とひとことで言っても複数の分類があることはご存知でしょうか。ネットで調べても、日本語ではあまり整理されていないと感じたため、本記事がシーケンサーの分類、知識をつける一助になれば幸いです。

 

目次

 

DNAシーケンサーの分類

 DNAシーケンシングとは、DNAを構成するヌクレオチドの結合順序を決定することです。DNAは生物の遺伝情報を担う分子であるため、DNAシーケンシングは生化学実験の基本手段となっており、新しい方法が開発され続けています。

 DNAシーケンサーの分類には何通りもの方法が存在しますが、以下の定義に従って4つに分類することが出来ます。

第1世代: サンガー法及びキャピラリー電気泳動法(1975~2005年)

第2世代: 並列化自動逐次解析(2005年~2009年)

第3世代: 非光学検出/1分子検出(2010年~2014年)

第4世代: ナノポアシーケンサー(2014年~)

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第1~4世代シーケンサーの分類

 

第1世代のシーケンサー(サンガー法とキャピラリー電気泳動)

 第1世代では、サンガー法とキャピラリー電気泳動を用いたDNAシーケンシングが行われてきました。

 サンガー法では、DNAポリメラーゼによる塩基伸長反応を利用します。この際、伸長に必要な3’の水酸基を化学的にブロックした構造変異体を混合して反応に使用することで、ランダムに伸長停止したDNA断片を調製します。その後、長さの異なるこれらのDNA断片を電気泳動で分離することで、配列を同定可能です。

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サンガーシーケンスの概略図

 サンガー法で配列を同定するためには、解析サンプル量を十分に確保する必要性から、DNA配列の単離・増幅が必要となります。そのため、大量のDNA配列の解読には、時間とコストを要することが課題です。こうした背景から、第2世代以降のDNAシーケンサー開発が進みました。

 その一方で、網羅的解析が必要ない配列解析のために、未だにキャピラリー電気泳動による配列決定は重宝されており、研究室で使用したことがある方も多いのではないでしょうか。

 サンガー法の功績は、なんといっても「ヒトゲノム計画」でしょう。ヒトのすべてのDNAを解読しようというこの試みは、1990年代に開始してから13年間にもわたり、世界中の科学者が力を合わせて、ヒトゲノムに含まれる30億個の塩基対全てを解読したのです。

 

第2世代のシーケンサー(並列化自動逐次解析)

 第2世代シーケンサーの特徴は、第1世代と比較して「大量高速処理を安価」に実施できることであり、一般に第2世代以降のDNAシーケンサーを「次世代シーケンサー」と呼んでいます。大量処理は、並列度の向上と自動化により達成されており、解析量当たりのコストも第1世代と比較して1/100以下へ削減されました。

 大量高速処理にあたり、第1世代ではクローン化により増幅していた前処理プロセスが、多数のクラスターによる増幅へと改良されました。また、塩基認識プロセスにおいても、クラスターごとの酵素反応、試薬付加、洗浄を並列かつ逐次的に、自動で実施できる仕組みが開発されました。

 第2世代シーケンサーを開発した企業によって、プラットホームに差異はありますが、「塩基ごとに光学系装置で取得した多量の画像を情報処理したうえで塩基同定する」という点で、原理的には共通しています。

 

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第2世代DNAシーケンサーの概略図

 第2世代シーケンサーとしては主に、核酸取り込み時のピロリン酸放出を検出するPyro-sequencing法を利用した454GS FLX(Roche社)や、1塩基合成技術(Sequencing by Synthesis)に基づくMiseq, Hiseq(Illumina社)があります。また、リガーゼを用いたオリゴDNAのライゲーションに基づくSequencing by Hybridization法を利用したSOLiD(Life Technologies社)も開発されています。

 

 この中でも、特に普及したのがillumina社のシーケンサーです。本手法は、1.前処理 2.塩基認識 3.検出同定の3ステップに分けられます。

 

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Illumina社のシーケンサーの原理

 始めに、前処理過程でブリッジPCRと呼ばれる増幅法を用いて、1種類のDNA断片から成るクラスターを多数生成します。まず、数百塩基の長さのDNA断片の両端に、PCRによって2種類のアダプターを付加し、精製します。次に、アダプターに相補的な塩基配列が共有結合されているフローセル(スライドガラス)にDNA断片を固定し、ブリッジ構造を形成させます。この状態でPCRを繰り返すことで、同一DNA断片から成るクラスターが形成され、フローセル上での多種類クラスターの調並列解析が可能となります。

 次に、クラスターごとに同時並行で、4種類の蛍光物質で標識された塩基を1塩基ずつ加え、ポリメラーゼ伸長反応を行います。各塩基は保護基で修飾されており、1塩基合成で反応が止まります。この際に、各クラスターの蛍光を画像で捕捉し、次いで保護基と蛍光標識を外し、次の反応へと進みます。本原理では、保護・脱保護の機構により、4種類の均等な蛍光修飾塩基を1塩基ずつ確実に読み取ることができ、高精度な解析が可能となります。

 

第3世代のシーケンサー(非光学検出/1分子検出)

 更なるコスト低減、高スループット、簡便化を目指した第3世代シーケンサーの開発方向性は、2つに大別されます。

 1つ目は、第2世代シーケンサーで採用されている光学系以外の検出法の採用です。特に、電気化学的な方法を用いた検出法では、高価な蛍光試薬及び光学系検出装置を使用せず、装置及び解析コストの低減が期待できます。例として、半導体チップによるプロトン測定法を利用したIon PGM, Ion Proton(Life Technologies社)があります。

 もう一つの開発方向性として、PCR増幅等の前処理を必要としない原理の採用があります。「1分子シーケンシング」は、多数の分子の平均値を計測するのではなく、DNA一分子を鋳型として1塩基ごとに反応を検出・同定する方法であり、各種スペックの向上のみならず、一般的に増幅によって失われる塩基修飾解析を可能とすることが期待されます。例として、1分子リアルタイム法に基づくRS(Pacific BioScience社)が挙げられます。

 

第4世代のシーケンサー(ナノポアシーケンサー)

 ナノポアシーケンシングとは、DNA一分子だけが通過できる構造(ポア)を塩基認識プロセスに活用し、主に電気的に同定検出する新たな原理のシーケンサーです。1分子解析のためPCRなどの前処理が不要であり、また、蛍光試薬や検出装置が必要ない利点を有しています。タンパク質ナノポア法によるMinION(Oxford Nanopore Technologies社)がその一例です。

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ナノポアシーケンサーの概略図(https://nanoporetech.com/jp/how-it-works)

 これまでのシーケンサーよりも長鎖のDNA(数十キロ~数百キロ塩基)解析が可能で、これまで解析が行われていない生物の新規ゲノム解析や、従来型の次世代シーケンサーでは解析が困難な特殊なゲノムの遺伝子解析への利用が期待されています。

 初期投資をほとんど必要とせず、また、手のひらに持ち運ぶことが可能なシーケンサーであり、医療現場での利用に期待が広がります。

 

 これまでDNAシーケンサー技術では、日本は後れを取ってきましたが、大阪大学発のベンチャー企業であるQuantum Biosystemも、第4世代のシーケンサーを開発しています。タンパク質ナノポアではなく、シリコン基板などの固相構造を採用する手法となっており、2021年に試作機の提供を開始する計画です。

 素晴らしい技術を持つスタートアップ企業であり、もし私にお金があれば今すぐ出資したいと感じる程です笑

 

まとめ

 第1世代~第4世代までのDNAシーケンサーについて記しましたが、結局のところ、リード数やリード長、スループット性を考慮してシーケンサーを選ぶ必要があります。下表を参考に、目的に応じたシーケンサーを調査することから初めてみてはいかがでしょうか。

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各DNAシーケンサーのリード長とリード数